成長支援
産業コーチが提供するパーソンセンタードコーチングに基づく成長支援について、ご紹介します。
人間は、常に変化する体内や環境からの影響を、絶えず経験しています。
それは、朝目覚めて日中に活動的になり、疲労を蓄積し、次第に活動が低下して夜に就寝するという日々のプロセスにも、自律神経系や内分泌系、免疫系などの反応が連鎖的に起きています。また、このような反応は、気温や気圧の変化に対応するためにも、人間の中では様々な反応が起きます。
こうしたあらゆる変化にさらされながらも、生命活動を維持して行動するため、秩序を作って保持する機能が人間にはあります。
この秩序を作る時に、軸となるのがその人独自の遺伝子の発現によって形成された神経生理学的な反応やその反応にもとづいた心理的な反応です。
これらの反応とその都度体験している事柄を関連させて、快感情や不快感に由来する概念がそれぞれ作られていきます。
概念は意識的働きを介すことなく、この世に誕生した時から作られ続け、このよう にしてできた概念の集まりを「自己構造」と呼びます。
性格を意味するパーソナリティの主だった内容として、この自己構造は機能しています。
この自己構造という秩序を作って、人間はさまざまことを認識し、感じとって、考えたり行動をしていきます。
そして、行動するうえで欠かせない概念として、他者の存在があります。
社会という環境に生きる人間にとって、他者という存在は重要な情報に値します。この他者と関わって生きていくための概念も作られます。
この時、自分の生理的な反応や心理的な反応に直接的に結びつかない概念を、自己構造に取り込むということになります。
つまり、他者が自分自身に伝える反応を、自分の生理的な反応や心理的な反応に基づいているかのように歪めて、概念を作るということです。
こうして他者の反応とうまく関連させて、社会的な関係を持ちながらさまざまな能力を発揮して、人は成長していきます。
社会で生きていくために、自分自身の中で起きている生理的・心理的反応よりも、他者と関わるために作られた概念を優先する機会が多くなります。
そのため、実際に経験している生理的・心理的反応と概念との間で矛盾を引き起こし、秩序のために形成された自己構造が崩壊する脅威が生じます。
この脅威を回避するため、とっさに働く心理的現象に「否認」があります。
この否認は、実際に経験している生理的・心理的反応を、意識にのぼらせないことによって、起きていないことにし、秩序の安定を維持する現象です。
これは、脅威に迅速に対応するために起きることなので、意識的な働きを介さずに機能します。それでも、この脅威にさらされそうになる心理的緊張感だけは意識にのぼることがあります。
他にも自己構造が崩壊するのを避けるための働きがあります。それを「防衛的反応」と呼んでいます。
この防衛的反応は、他者などの自分以外の存在が刺激となって、生理的・心理的反応が意識にのぼってしまうのを防ぐ機能があります。
つまり、危険な要素を持つのではないかと、他者や状況について懐疑的になることで、生理的・心理的反応が意識にのぼらないよう未然に回避しようとするものです。
この働きによって、防衛のための感じ方や思考、行動選択が優先されやすくなります。
この防衛的反応の回避の特徴を「逃走反応」とも呼び、自律神経のうち交感神経の働きが伴っています。
そして、この防衛的反応には、他に2つの機能があります。「闘争」と「凍りつき反応」と呼ばれるものです。
回避だけではうまく対処できなかった時に、交感神経がより優位となって起きる防衛的反応が「闘争」です。積極的に問題に接近して、危険要素としての価値を下げる行動や発言をすることを指します。
「凍りつき反応」は、危険な要素を持つと認識した状況や他者が過ぎ去るのを待つために、身体が固まったように行動を制限したり、思考の停止状態に陥る反応で、自律神経のうち副交感神経の背側迷走神経複合体による防衛的反応によって生じます。
以上のように、防衛的反応は自己構造の秩序を守るために、矛盾を引き起こす生理的反応や心理的反応が意識にのぼらないように、無意識の活動として機能しています。
生命活動を優先するという最大の目的のためには、この防衛は重要な働きとなりますが、これが続くと、自分オリジナルの反応である生理的・心理的反応に対し、否定的な働きが生じることから、自己否定的感情に苛まれやすくなります。
また、考える時にも概念と一致しない自分の反応が意識にのぼらないように否認や防衛的反応が働くため、そこを回避した思考内容となり、柔軟に概念を利用するどころではなくなるので、問題解決や人間関係、将来について悩みやすくなります。
この状態では、遺伝子の発現によって備わっている素質や感性を十分に活かす余裕はなく、新しい状況の変化に適応することに困難さを感じたり、他者との関係にも支障をきたしやすくなります。
この状態を解消する作業に「自己受容」があります。これは、自己構造に含まれる他者からの反応を歪めて作った概念を修正して、実際に経験している自身の生理的・心理的反応を認めた内容に変容することを指します。
この自己受容の作業を行なっていくにあたり、遺伝子レベルで自分らしさを表している生理的・心理的反応に対して、意識にのぼらせないようにと拒絶的な心理状態が生じやすく、自己否定的感情や葛藤におちいることが多くなります。
そこで、心の成長の専門家である産業コーチは、セッション提供の中でこの否定的感情を緩和させる技能を用いて、自分らしさを認めた概念に変わるようサポートし ます。
具体的には、下記の通りです。
-
セッションで抱えている悩みや実現したいことについて話していくうちに、それほど否認しなくてもいい自分の反応が、意識にあがってくるようになります。
-
意識に上がったものは言葉となり、その場の会話の中で産業コーチに伝えていくことになります。産業コーチは、防衛的反応が少ないことから、批判することなく、クライエントしか知り得ない意識内容として、可能な限りそのまま学び取って理解していきます。
-
どのようなことも一貫して、学ぶように理解する産業コーチとの関係性から、自然と安心感が形成されます。
-
この安心感の分、それまで否認していたことを、意識にのぼらせることができるようになります。
-
そして、この内容も産業コーチとの関係性で、一貫して理解される体験を伴うことで、さらに安心感が高まって、自分の反応を認めやすくなり、否認する必要がなくなっていきます。
こうしたプロセスを繰り返していくことで、自分の反応に基づいて内省することに、安心感や信頼感を高めていきます。
自分の反応に安心感を高めていくうちに、自分の反応に一致しない他者の反応に基づて形成された概念が、意識に浮かぶようになります。
この時、心理的緊張が生じて防衛的反応に転じることもあります。
産業コーチは、ここでも一貫して批判することなく、受容的に理解を進めます。
この体験を通じて作られる安心感の分、自分の反応を受け入れられるようになっていきます。こうして、他者由来の概念も自分の反応を伴って感じとることが可能になり、自分の反応と一致した概念へと変容します。これを自己受容と呼びます。
上記の作業によって、自己構造は新たな概念を増やし、より安定的な秩序を形成することができます。
この一連のプロセスは、自己構造が拡大する成長のプロセスということができ、より自分らしさを活かせるあり方へと変わっていくことを指しています。
自分らしさと一致する概念が多いパーソナリティになれば、うまく現実に適した形で、その人オリジナルの遺伝的特性を活用し、自分らしさを発揮することができます。
また、自己否定の心配がない分、心は安定感が強まり、他者の概念 を理解する余裕が生まれ、自分らしさを保ったままうまく関係性を築き、互いを活かしていくことにも繋がっていきます。
そして、扱える概念が増えるほど、そこから生じる認識は多角的なものとなり、自由な発想を伴う内省力の向上が期待できます。この内省力の高さから、課題を的確に捉えやすくなったり、その解決のアイディアを作りやすくなります。他にも、新しい価値を生み出していくことにも役立つでしょう。
-
Rogers, C. R. 1951,Client-Centered Therapy: Its Current Practice, Implications and Theory. Houghton Mifflin. (保坂亨・諸富祥彦・末武康弘訳,2005,ロジャーズ主要著作集2:クライアント中心療法,岩崎学術出版社)
-
Rogers, C. R. 1956,Client-Centered Therapy: A Current View. In Fromm-Reichmann,F. & Moreno, J. L. eds., ProgressinPsychotherapy.NewYork:Gruneand Stratton.(伊東博訳,1967,クライエ ント中心療法の現在の観点,伊東博編訳,ロージャズ全集15:クライエント中心療法の最近の発展,岩崎学術出版社)
-
Rogers, C. R. 1957,The Necessary and Sufficient Conditions of Therapeutic Personality Change. Journal of Consulting Psychology. In Kirschenbaum, H. & Henderson, V. L. eds., 1989,The Carl Rogers Reader. Houghton Mifflin(伊東博訳,2001,セラピーによるパーソナリティ変化の必要にして十分な条件,伊東博・村山正治監, ロジャーズ選集(上):カウンセラーなら一度は読んでおきたい厳選33論文,誠信書房)
-
Rogers, C. R. 1959,A Theory of Therapy, Personality, and Interpersonal Relationships, as Developed in the Client- Centered Framework. In Koch,S ed., Psychology, a Study of a Science. Vol. 3. Formulations of the Person and the Social Context. McGraw-Hill.(畠瀬稔他訳,1967,クライエント中心療法の立場から発展したセラピィ,パースナリティおよび対人関係の理論,伊東博編訳 ロージャズ全集8:パースナリティ理論,岩崎学術出版社)
-
Rogers, C. R. 1959,Lessons I have learned in Counseling with Individuals. In Dugan, W. E. eds., Counseling Points of View. University of Minnesota Press.(伊東博訳,1967,カウンセリングの立場,伊東博編訳,ロージャズ全集15:クライエント中心療法の最近の発展,岩崎学術出版社)
-
山田俊介,2016,共感的理解の意味についての考察: カール・ロジャーズのとらえ方の変化をもとにして,香川大学教育学部研究報告,第I部,145,13-30
-
山田俊介,2018,受容及び無条件の肯定的配慮の意味についての考察:カール・ロジャーズのとらえ方の変化をもとにして,香川大学教育学部研究報告,第I部,149,93-110.
-
諸富祥彦,1997,カール・ロジャーズ入門 自分が“自分”になるということ,コスモス・ライブラリー
-
西垣悦代,堀正,原口佳典,2015,コーチング心理学概論,ナカニシヤ出版