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​産業コーチングの理論

1.​序文

産業コーチが基本とするアプローチと背景になっている心理学的理論をご紹介しております。

このご紹介により、産業コーチングを受ける方へのインフォームドコンセントを果たしやすくし、また産業コーチ養成をご受講される方に、事前にイメージを把握するための参考としていただくことを目的としております。

2.​産業コーチングの背景

産業コーチングは、パーソンセンタードコーチングを採用しています。パーソンセンタードコーチングとは、カウンセリング理論として有名なパーソンセンタードアプローチとその理論に基づくコーチングです。

パーソンセンタードアプローチの考え方は、「成長モデル」とも呼ばれ、うまくいかない行動を起こすような心理的矛盾を解消すると同時に、心理的成長が起き、以前より増して安定的な心の状態になることを目指す理論となっています。この心理的成長によって、より自分らしく能力を発揮するという意味での自己実現が進み、対人関係も警戒することが減るため、他者と建設的に付き合えるようになります。

初期のコーチングは、この自己実現や成長などの要素から影響を受けて誕生したと言われています。

そして初期のコーチングの中でも、はじめてパーソンセンタードアプローチの心理学的理論を参考に誕生したコーチングが、このパーソンセンタードコーチングです。

しかしながら、心理学的理論があまり理解されないまま広まってしまったことから、学術的な批判も多くあります。

理論を前提にしているからこそ、アプローチは意味を持って発揮され、クライエントに貢献できるセッション提供が可能となります。

そこで、産業コーチ協会では、理論の理解を徹底した上でのセッション提供および養成講習を重視しております。

産業コーチが基本とする産業コーチングとその理論は下記の通りです。

3.人格理論

3-1.​前提

(1).知覚された内容としての現実

■人間は、主観的な現実に基づいて、感情や思考などの心理的反応が生じたり、行動選択といった反応がなされます。つまり、絶対的な実際(absolute reality)に反応しているのではなく、実際についての主観的な知覚内容に反応しているのです。

■このことから、象徴化し意識化した経験内容が知覚内容となり、その知覚内容が個人にとっての現実ということがいえます。

■そして、この知覚内容がどのようにして作られるのかについては、そもそも人間は、意識領域と無意識領域からなる「現象の場」で常にあらゆることを経験し続けています。この経験内容には、大量の外部刺激や生理反応が含まれています。

これらの経験のうち、なにをどのような認識で象徴化するかによって、その個人の意識内容が作られます。

■この意識内容にならなかった経験は多く存在していることになります。経験には大量の外部刺激や生理反応が含まれているので、すべてを意識化してしまえば情報処理の限界に達してしまうことからも、経験の一部を象徴化して理にかなっているといえます。

■意識にのぼらなかった経験については、時間を遡ってある感覚を思い返そうとした時に、それらの感覚が心的ニーズの充足と結びつく場合は、象徴化され、意識化されるようになります。

■こうした複雑性のある現象の場の事柄は、その個人だけが知ることができ、他者が細部まで完璧に把握することは不可能といえます。

■つまり、第三者が知識や自身の経験則から、当人の経験した事柄の性質を理解するだけでは、その人の行動や心境を推測することは困難であることを表しています。

■この「知覚された内容としての現実(reality-as-perceived)」は、人生のあらゆる場面で活用されます。

 ■社会的には、複数の人々の間で共通性を持つ「知覚された内容としての現実」があり、この共通認識に基づいて、さまざまな状況や他者と関わって活動することができています。

■この「知覚された内容としての現実」は、より信ぴょう性を高めるための素材とすることもできます。それは知覚内容が確かなものかどうかを検証することによって、信ぴょう性を高めたり、新たな現実認識に変わることを指しています。

■検証の結果、最初の知覚内容が新たな認識に変わっても変わらなくても、知覚された内容はどこまでも現実として認識するための仮説であり、その後の経験によってまた検討され、再確認されることになるのです。

■このような一連の検証と確認によって、個人が知覚することのできる世界は、かなりの確実性を持つ仮説によって構成されるようになります。そうした仮説に基づいて、様々な推測も行なっているのです。

■しかし、さまざまな経験によって確認されてきた「知覚された内容としての現実」と入りまじって、ほとんど検討されずに残されている知覚内容もあります。それでもその本人にとっては、その知覚内容も現実として認識するために同様に扱い続けることになります。

(2).生命体としての自己の維持

■基本的に生命体としての人間は、生命活動を続けていくにあたり、自らの存在を維持しようとするある種の目標を、達成しようととします。

これは、脅威にさらされて自身をしっかり守ろうと防衛的になっている場合にもいえることですが、同様に、自分の存在を安定させるための使い慣れた方法が役に立たない場合であっても、存在を維持する働きは絶えずそのニーズの達成を図ろうとし続けます。

■このことは、本質的には誰しもが、恐怖や心理的に嫌悪することに対して、自身の資質を進んで伸ばそうとしたり、自己実現しようとはしない、ということにもつながっています。

(3).成長について

■人格の力動(personal dynamics)として、生命体は成熟をめざし続ける傾向を持っています。この成熟は、自己実現(self-actualization)も含んだ意味合いがあります。

■生命体としての自己は、自身の安全や能力の発揮のために、現実世界や自分自身の情報を獲得し、自身が十分に機能するように成長していきます。

■この継続的な成長のプロセスは、自己構造の拡大を図り続ける働きによって成り立っています。この働きは、人間が生まれ持っている心理的ニーズともいえ、可能な限り自律的(greater independence)になろうとする衝動も併せ持っています。

■加えて、この成長欲求ともいえ心理的ニーズは、自分に対して責任を持つ方向を目指すものでもあります。この責任の意味は、自分で自分を調整しようとする「自己規制」と、自分で自分を操ることができるという「自己決定的統合(self-determined integration)」への願望、そして自身のために自分を律するという「自律」を表しています。

■提唱者であるカール・ロジャーズは、この成長のプロセスについて、生命体としての自己が強化と成長を目指す過程は、決して円滑なものではなく、葛藤や苦痛を伴うものだと主張しています。

■以上のような成長プロセスの中で、現実世界の情報を獲得していく側面が含まれていることからも、自身の安全と能力の発揮のためになされる自己実現は、広い意味での社会化(socialization)をめざしているといえます。

(4).心理支援における前進的傾向

■産業コーチを含め、心理支援に携わる多くの者は、人間の成長を目指す前進的傾向を基盤として頼っていくことが重要となります。

■それは成長をめざして動き出すクライエントの一般的な動機づけとしてみられるだけではなく、精神疾患になりかけているクライエントでも、自殺願望が見受けられるクライエントの場合にも、同様に前進的傾向を根本的に頼っていくことになります。

■個人の現象の場でなにが起きているか正確には把握できない他者が、その個人にとって脅威である方向へ無理強いしても、生命体としての資質を失いながらの成長には危険が伴うため、自身の安全についての責任を放棄させることにつながり、自らを信用できなくなるなど、別の問題が表面化することもあります。

■このことからも心理支援には、継続的な成長と強化をめざす生命体の傾向が重要であることがわかります。

(5).「自己」について

■特に幼児期では、生命体としてのニーズを満たそうとする目標指向的な発想に基づいて、意識的自己(conscious self)によって行動が選択されます。

■しかし、生命体としての自己と周囲の環境との相互作用で形成される自己構造が発達していくにつれ、生命体のニーズを満たす行動より、形成された自己に一致した行動を、意識的自己は優先的にとるようになります。

■ここでの自己または自己構造が意味するのは、個人が自分をどのような存在と捉え、その存在をどう評価しているかによって形成される概念の集まりを指しています。

■そして、自己構造を安定的にするために、この自己概念の内容と認識する経験を一致させようとする働きが、意識的自己にはあります。

■そのため、個人は命の営みをしている生命体としてのニーズよりも、自己概念と一致した行動に重きが置かれやすくなっていくのです。

■このことからも意識的自己は、無意識領域が存在する以上、必ずしも生命体としてのニーズと共存しないといえます。生命体としてのニーズが、自己構造の一部として経験されるかどうかによって、意識的自己と生命体のニーズが共存できるかどうかが決まってくるわけです。

3-2.自己構造の成り立ちとその機能

​(1).二通りの象徴化

■「自己構造(the structure of the self)」は、二通りの象徴化によって自己概念が形成され発達します。二通りとは、「直接的価値づけによる象徴化」と「歪曲による象徴化」です。

■「直接的価値づけによる象徴化」は、生命体としての反応から直接的に価値づけて、概念を象徴化することを指します。

■そして「歪曲による象徴化」は、他者の価値や概念を自分のものとして歪曲して象徴化することを指しています。

(2).直接的価値づけによる象徴化

■まず幼児期初期に、生命体として脅威に感じられた経験や、維持・強化しない経験は、否定的な価値づけがなされます。

■反対に、生命体としての自分自身を強化すると知覚した経験は、肯定的な価値づけがなされます。

■これに加えて、成長していく中で間接的な価値づけがはじまります。それは他者からの評価が、この概念構造に取り込まれていくことを指しています。

■支えたり守ってくれる周囲の存在に受け入れてもらえないことは、子供にとって脅威となります。このことから、そうした重要な他者との関わりは、子どもの初期の自己経験(self-experience)において、極めて重大な基盤となっていきます。

■具体的には、子どもは自分自身を愛されるに値する存在なのだと知覚し、さらにそう知覚できた両親と自分の関係を、愛情の関係として知覚します。そしてこれらの知覚に、子どもは肯定的な感覚的価値(positive sensory values)を経験し、同時に自己の強化を経験していることにもなります。

■この経験が、自己構造を形成する最初の核となっているのです。

序文
産業コーチングの背景
人格理論値
前提
知覚された内容としての現実
(2).生命体としての自己の維持
(3).成長について
(4).心理支援における前進的傾向
「自己」について
3-2.自己構造の成り立ちとその機能
​(1).二通りの象徴化
(2).直接的価値づけによる象徴化

(3).歪曲による象徴化

■子供は成長するにしたがって、それまで満足していた行動に対する両親からの否定的な評価を経験するようになります。

■その評価内容から、愛されない存在であるという取り入れが行われ、初期の自己構造を揺るがす強い脅威を経験します。

■この時、子供の自己は「否認」や「歪曲」といった心理現象を起こします。

■ここでの「否認」は、経験された満足を意識にのぼらないようにすること。また、「歪曲」は関係性の影響を受けて経験の象徴化を変えることを示します。

■もう少し具体的にこの歪曲についての理解を進めると、まず歪曲せずに象徴化した場合の例として「両親が私のこの態度について不満足を経験しているということを、私は知覚する」があります。このままでは自己構造が脅威にさらされ続けるので、擁護するために歪曲された象徴化が起きます。この結果、「このような私の態度は不満足であると、私は知覚する」となるのです。

■こうしてたとえ怒りを表現することが、自己にとって満足のいくことであり、自己を強化することとして経験できる方法であったとしても、歪曲された象徴化によって、怒りを表現すること自体が悪いこととして経験されるようになります。

■上記のように、歪曲されたことによって、その知覚内容は自分自身の感官的・内臓的反応に基礎づけられるようになり、あたかも自分の知覚の仕方・評価であるかのように経験されることになります。

■それは同時に、重要な関係にある他者の知覚の仕方・評価から投射された価値体系が、子供の心にも反映され、子供の自己が持っていた直接的な価値と同等に扱われて「現実(real)」の認識となって、本人の内部に受け入れらるようになるのです。

■以上を踏まえて整理すると、「自己」は感官的・内臓的反応を根拠に、すでに持っている構造と適合するように経験を歪曲して象徴化し、それによってできた価値を、自己構造に組み込む働きを持っているということになります。

■このようなプロセスの結果、組み込んだ価値観が、子供自身の生命体としてのあり方から分離した自己概念が形成されることになるのです。

(3).歪曲による象徴化
3-3.矛盾対立について

(1).知覚の拒否

■自分の中で起きている経験を、そのまま象徴化して意識的表象にした時、すでにある自己概念と完全に矛盾する場合は、自己構造にとって外傷的な脅威となってしまいます。

■このようなことを回避するために、意識的自己(conscious self)によって、経験している事実や欲求が意識にのぼるのを妨ぐという強い知覚の拒否が起きます。

■この知覚の拒否によって、経験していても象徴化が生じないので、意識で感じることはないという状況が作られます。または、意識にのぼっても脅威とならないように歪曲された象徴化だけが意識にのぼることになります。

3-3.矛盾対立について
(1).知覚の拒否
​(2).緊張と不安

■自己構造が脅威にさらされるのを回避するために知覚の拒否が起きても、崩壊する可能性を潜在的に意識的自己が知覚する時、心理的緊張や不安を感じやすくなります。

■そのため、成長や社会適応に際して、自己概念の変更を必要とするような知覚内容を受け容れることは、本人からすると自身を圧迫していく方向や、社会的に否認される方向へと変更しなければならないように経験されるので、簡単なことではありません。

■このような場合、自分のありのままの存在や能力を受け容れることが困難にもなるので、自身の考えや能力の活用に支障をきたしやすくなります。

■これらの現象は、多くの心理的不適応にみられ、不安を生み出す基盤にもなっています。

​(2).緊張と不安
3-​4.行動について
​(1).知覚の歪曲による行動

■人間の行動選択は、自己概念との一貫性を保とうとする基本的な性質があります。これは、生命体としてのニーズを満たそうとするときも同様に、自己概念と一致したやり方が選択されることになります。

■形成された自己構造内の自己概念に、あまりにも矛盾対立してしまうような生命体としてのニーズが起きた場合、そのニーズを別の知覚内容に歪曲することで、自己概念と一致した行動選択を取りつつ、間接的に生命体としてのニーズも満たす、ということが可能になっています。

3-​4.行動について
​(1).知覚の歪曲による行動
(2).意図しない行動

■基本的に、自己概念に反する生命体のニーズがあった場合、その矛盾は自己構造を脅かすものとして象徴化が拒否されます。

■しかし、生命体としてのニーズの圧力が、著しく大きくなった場合、そのニーズを意識にのぼらせることなく、ニーズの充足を得ようと行動に移す現象が起きます。

■こうした行動が、本人が意図せずに起きてしまうという心理的不適応の形として表れることがあります。

■また、そうした行動を取った自分を受け入れることができないことから、自分が自分自身ではないという知覚の仕方も生じることがあります。

■いずれの場合も、正確な象徴化を否認されたことによって、生命体としての判断が優先され、自己概念と一致せずに遂行されること指しています。

(2).意図しない行動
(3).心理的不適応

■実際に存在しているあるがままの生命体としてのニーズが、自己概念に反するために受け入れられず、ないこととされる。心理的緊張はこうした際に生じます。

この心理的緊張の発生する背景には、さまざまな「食い違い」があります。

■生命体としてのニーズは、過去にその反応から直接的に価値づけて象徴化された自己概念を伴っている場合も多くあります。ですが、自己構造の中には他にも、他者の価値や概念を自分のものとして歪曲して象徴化された自己概念もあることから、この2つの自己概念との間で食い違いを起こすことがあります。

■この食い違いは、自己構造が崩れる脅威でもあり、それを潜在的に意識的自己が感じる時、心理的緊張を感じたり、自分をコントロールすることに困難さを抱くようになります。

■そして「食い違い」には、別の様相も存在します。自分がない、他者が思うことをやろうと努力する時だけ自分でいられる、という場合です。

■これは自己構造のほとんどが「他者の価値や概念を自分のものとして歪曲して象徴化された自己概念」で構成されていて、「生命体としての反応から直接的に価値づけて象徴化された自己概念」が少ない場合に起きるとされています。

■このような自己構造の場合、知覚内容は本人の実際の経験とは結びついていないので、食い違いを起こしやすく、緊張や苦悩の感情をより表現するようになります。

(3).心理的不適応
(4).防衛的反応

 

 

■自己構造に大きな矛盾をきたすことによる脅威があった場合、その知覚内容を意識にのぼらせないよう強固な防衛的反応が起きます。

■こうした知覚の拒否について、他者が指摘した場合、強い矛盾対立が意識にのぼる危険性があるため、抵抗することがります。

■この場合、他者の存在そのものを脅威として知覚し、自己構造が脅かされることから防衛を図ろうとすることから、脅威の対象である他者の価値を下げようと必死に試みることがあり、その様子は他者からすると、攻撃的な態度に感じられやすくもあります。

■強い矛盾対立の脅威に対して、防衛することができなくなれば、激しい不安感に襲われたり、破滅的な心理的崩壊や分裂に至る場合もあります。

■また、知覚の否認や歪曲化された経験が多いほど、不安定で大きくねじれた自己構造を体制化することになります。この自己構造にとっての新しい経験は、脅威として知覚される可能性も大きくなっています。

■以上のことが、防衛的反応が強固になってしまう背景にもなっています。

(4).防衛的反応
(5).心理的適応に至ると

■矛盾対立を起こさない形で、自己構造が再体制化され、生命体としてのニーズも受容されるようになると、心理的適応に至ります。

■この心理適応では、本来存在していた生命体としてのニーズが、拒絶されることなく、ありのままに受容されたことから「本当の自分になること(being the real me)」が経験されるといえます。

■また、実際に受容に至った時、心理的緊張が解消または軽減されたことから、神経生理学的にもリラックスした心地を感じ「自分自身についての新しい気持ち」をありのままに発展させることができるようになります。

■自己構造が再体制化され、生命体としてのニーズやそこに含まれていた生理的な反応も、ありのままに象徴化され、自己の一部であることが受容されるようになることを「統合」といいます。

■自己構造がそれまで拒否していた生命体としてのニーズを、意識のなかに受け容れることによって、その自己構造は拡大し、明確な統合が達成されるのです。

■この統合が起きた分、成長欲求が阻害されることなく十分に働くようになり、あらゆる生活を建設的な方向へと促進するようになります。

■その個人は、自分の力が統一感を伴ってありのままの生命体としての自己を実現し強化しようとする明確な指向感(a sense of direction)を感じるようになるとされています。

■さらに、様々な衝動や知覚を意識的に受容することは、自己統制感を獲得する可能性を増大させます。なぜならば、自己の一部として認められなかった生命体としての経験は、受容するまでは自己意識のコントロール下にないものになっているからです。

■受容できてしまえば、自分でどうすることもできないような行動は解消され、よりいっそう自然な行動選択をとるようになります。それは、これも自分であるという事実を、心から受け容れるようになった分、気にする必要がなくなったためといえます。

(5).心理的適応に至ると
4.アプローチ
4-​1.前提
4.アプローチ
(1).クライエント理解の進め方

■このアプローチでは、産業コーチが目の前のクライエントについて、理解を形作っていく対話が重要となります。そのため、クライエント独自の行動や発言の意味を理解するための方法が基本的なアプローチとなっています。

■前提として、個人の無意識・意識の内容で構成される現象の場を、十分に知ることができるのは、その個人だけであり、さらにその個人によって知覚された内容への反応が、行動や発言として現れるため、他者が直接的にその行動や発言の意味を、真に知ることはできないという考えがあります。

■しかし、その行動や発言が反応として起きることとなった知覚内容を、本人から入手していくということが、意味を知る方法として体系化されています。

■この意味を知る作業から知覚の仕方を得ていくことにより、応用的にその個人の経験の意味を捉えやすくなっていきます。

■この理解の仕方は、異文化を丁寧に知ろうとするあり方とよく似ていわれています。

■直接的かつ完全にクライエントと同じように知覚することはなくても、とても近い知覚の仕方にすることができるのであれば、それまで無意味で奇妙な発言と思われていたことも、その背景にはしっかりと意味のある内情があったのだと、産業コーチは理解することができるのです。

■このアプローチでは、クライエントがそれまでしてきたことが、非建設的であるとか、思慮が足りないとか、妄想的だとかいう他者評価は行いません。そもそも他者評価は、その本人が経験していない評価であり、本人以外の他者の知覚の仕方に基づいて解釈している時点で、その他者の知覚内容を表した内容となっているのです。

4-1.前提
(1).クライエント理解の進め方
(2).知覚の仕方によるズレについて

■クライエントの知覚内容を理解する手段としてコミュニケーションに頼ることになりますが、どのような種類のコミュニケーションであれ、聞き手の独自の知覚の仕方がある以上、常に多少の誤解が含まれ、正確さを欠くことになります。

■それでも聞き手である産業コーチの知覚を消し去るのではなく、クライエントの知覚の仕方を理解するための材料として活用していきます。知覚対象(perceptual objects)の大部分は別の人間であっても、おおよそ符号していることが多いことが、活用できる理由となっています。

■例えば、「両親」や「立場が上の人」「友人」と行った知覚対象そのものが挙げられます。さらに、知覚対象に向けられる可能性のある「恐怖」「怒り」「困惑」「愛情」「嫉妬」「満足」「喜び」などの感情は、産業コーチ側の実生活で経験する私的世界にも存在しています。

■こうしたことから、コミュニケーションによって多少のズレは起きるものの、部分的にクライエントの知覚の場を推論することが可能となり、共通認識としての前提にすることができます。

(2).知覚の仕方によるズレについて
(3).表現の促進について

■クライエントの無意識・意識で構成される現象の場が、クライエント自身の意識にのぼってくる可能性が高いほど、クライエントはその意識化できる全体像を産業コーチに伝えることができます。

■この状況に至るためには、クライエントの私的世界を、自由に表現して語ることのできる状態が必要となります。

■これを困難にするクライエントの心理現象として、防衛反応が挙げられます。これは自然な心理現象ですが、ありのままに感じていることを意識化できても、隠したり、他者に受け入れてもらえると思える内容に、修正してしまう可能性もあります。

■逆説的に、この防衛反応が起こる必要性がなければ、その分クライエントの世界についての産業コーチへのコミュニケーションは、的確なものになっていきます。

■このアプローチが、他者評価をせずに、クライエントの知覚内容や知覚の仕方を、そのまま受け入れて理解を進めることに重きを置くメリットは、この防衛的反応を最小限にして、安心感のもとに自由な表現をする状態にいたりやすくするところにあるといえます。

(3).表現の促進について
​(4).注意点

■このアプローチには制約もあります。それは、そもそもクライエントの意識に上らない経験内容が多ければ、必然的に産業コーチの理解は不完全なものになるということです。

■そのことを踏まえ、セッション提供を進めていくことになりますが、産業コーチが意識に上らない事柄について推論を重ね、疑心暗鬼に陥ってしまうと、そこから産業コーチの私的世界に基づいてクライエントに腹をたてるといった過度な同一化または逆転移の状態に発展してしまうことがあります。

■このことからも、クライエントの意識にのぼっていないことを、本人ではない産業コーチが推論する際には、細心の注意を払う必要性があります。

(4).注意点
4-​2.中核的アプローチ
(1).共感的理解の形成方法

■この理解を進めるアプローチでは、クライエントのその時その時の意識にのぼっている知覚内容を、総合的に受け取ることを基礎としています。

■そのため、産業コーチはクライエントのあるがままを尊重し、当然のように受容することになります。

■また、産業コーチは、入手した知覚の仕方を確認するため、クライエントから受け取った知覚内容から知覚の仕方を取り入れ、その取り入れによって産業コーチの内面に生じる知覚内容の伝え返しを行っていきます。

■この伝え返しを繰り返す中で、クライエントの知覚の仕方を理解できた分、次第に産業コーチの伝え返す内容は共感的理解となって、クライエントの発言や行動に至る背景を、こまやかに反映したものになっていきます。

■そのことを受容的かつ肯定的な姿勢としてクライエントが認識した分、産業コーチに対する防衛反応や転移現象も少なっていきます。また防衛する必要性を感じなくなってくると、クライエントの産業コーチへの語りは、オープンなものとなり、クライエントはその個人特有の私的世界を伝えることが促進されるようになります。

■このようにして増大するコミュニケーションにより、クライエントは次第に経験の世界についての意識化が進み、よりいっそう正確な全体的様相を産業コーチに伝えやすくなっていくのです。

■信頼関係としてこの基盤を築くことによって、クライエントの発言を含めた行動についての理解は、はるかに輪郭化されたものとなり、その全体像が産業コーチの内面に現実味を持って感じ取ることが可能になっていきます。

■こうしたクライエントに先入観を当てはめて理解するようなことがないアプローチによって、産業コーチが行動や発言の意味をよりいっそう生き生きと理解するようになるばかりではなく、クライエントが安心感の中で、深く自身の自己構造の矛盾を認めやすくなったり、新しい気づきの機会を最大限にしていくことができていくのです。

4-2.中核的アプローチ
(1).共感的理解の形成方法
(2).尊重し受容する状態

■クライエント理解を進めていくにあたり、産業コーチ自身が、防衛を最小限の状態にしておく必要があります。

■なぜならば、産業コーチ自身がなんらかの経験を否認している場合、それらの経験が象徴化され意識化されることに対し、常に自分自身を防衛しなければならない状態となり、その結果、ほとんどの経験を潜在的な脅威と関連づけて防衛的に検討するようになってしまいます。

■この状態では、他者の存在が自己にとって脅威であるかどうかという知覚の仕方になることから、他者のさまざまな言葉や行動は、意図せずして自身の脅威として経験し知覚されやすくなります。

■このため、クライエントに対し、疑い深くなったり批判的にもなりやすく、クライエントから受け取った知覚内容から、知覚の仕方を入手してそこから生じる知覚内容を伝え返す際に、自分自身の脅威のための知覚に強く影響を受けて、この伝え返しの確認作業が難しくなってしまいます。

■結果、一人のユニークな存在である実際のクライエントを、理解することが困難になってしまうのです。

■上記のような状態であっても、訓練によって一切の経験が意識化される作業を通して統合される場合、防衛は最少限になります。

■こうしたことから、クライエントと接している時の産業コーチは、常に自分自身の経験していることが知覚されるのを拒否したり歪曲する必要がないため、自己が経験と一致した状態となっています。提唱者であるカール・ロジャーズは、この状態のことを「純粋性」と呼びました。

■この状態は、純粋に自分がクライエントに何を感じているのかを知覚しており、それを伝え返しとして活用できたり、クライエントの状態について丁寧に仮説立てて「見立て」を形成することができるので、産業コーチには欠かせない要素となっています。

■また、産業コーチは自分自身の内面を広くこまやかに受容する作業を通し、様々な経験の意味づけが自分自身を構成していたことを体験的に概念化していることから、他者についても同様に、その人オリジナルの意味づけによって機能しているありのままの存在として、自然と知覚するようになります。

■この自然な知覚のあり方が、産業コーチの他者を尊重する態度となっています。

■そして、産業コーチの知覚の仕方は、クライエント独自の価値体系と、産業コーチオリジナルの価値体系とは区分されているため、クライエントの価値体系を、産業コーチの価値体系に基づいて直接的に評価することはありません。

■そのため、産業コーチはクライエントを批判することなくあり続けることができ、この一貫性が受容的態度としてクライエントの内面に投影され、信頼関係を構築しやすくしていくのです。

■加えて、クライエントの知覚の仕方や意味づけを評価することなくそのまま受け取り続けることができるため、受け取った知覚内容についての伝え返しよる確認作業がはかどり、形成される理解内容はクライエントの知覚のあり方に近くなっていきます。このレベルの理解を、カール・ロジャーズは「共感的理解」と呼んでいます。

■自身のあらゆる面を高度に受容した産業コーチは、クライエントに対する理解力が高く、周囲の他者存在をよりよく理解し受容するので、必然的に多様なクライエントとの関係を良好なものにしていけるのです。

■以上のような心性を持った産業コーチと交流するクライエントは、自身の中に自己受容を創り出しやすくなります。

(2).尊重し受容する状態
(3).自己構造の拡大に至るまで
(3).自己構造の拡大に至るまで

ここでは、4つの段階に整理して紹介しています。

①〈脅威のない条件を作る〉

■まず最初に、セッション冒頭からクライエントがその都度知覚していることが、産業コーチに伝えられていくという状況があります。そして産業コーチは、その都度クライエントの知覚内容を受け取り、伝え返しの確認作業によって、知覚の仕方を含めたクライエント理解を進めていきます。

■自己構造の再体制化を可能にする状況に至るまで、産業コーチはこのクライエント理解の姿勢を終始一貫して行うことになります。

■このプロセスのなかでクライエントは、社会的存在である産業コーチに、経験や心境、知覚を受け容れられることを知覚し、産業コーチの受容的態度がクライエントの内面へと投影されていきます。

■この投影の結果、クライエントは自分が受け容れてもらえている存在だと感じることが、その都度達成され、次第に安心感が築かれるようになります。

■この安心感によって防衛が減少し、否定されていた経験が意識的自己によって、徐々に象徴化されていくことがはじまります。

■こうしたプロセスを通して、経験の探索を進めやすい心理的状況がクライエントの内部に作られていきます。また、この心理的状況を基盤として、自身の感官的・内臓的反応を頼りに検討できるようになっていくことがはじまります。こうして生命体としての反応を伴っていくことで、受容することが増えていきます。

■以上のことは、自己概念と矛盾対立するために否定されていた経験が、脅威のない条件下では、意識的自己によって徐々に象徴化され、意識にのぼり、知覚されるようになるためであるとされています。

②〈歪曲の発見〉

■次第に、過去に自分自身の経験に基づいているかのように歪曲して知覚するに至った様々な価値について、検討するようになっていきます。

■さらに、歪曲して象徴化されていた自己概念が、今の価値体系や知覚の仕方に大きな影響を与えていたことに思い至るようにもなります。

■次に、産業コーチに向けて、クライエントはそれらの価値に満足しないまま、他者が当然だと思うことを自分はしてきた、という心境を表明するようになります。

■また、こうした価値体系によってでできた「べきだ」「当然だ」「正しい/正しくない」という構造を受け容れることができず、自分はどうしたらいいのかと、苦悩を表面化し出します。

■この状況下で、クライエントはいかなる自己を表現しても、その背景にある知覚を一貫して産業コーチに受容されるという体験を伴い続けることによって、クライエントは苦悩を和らげ、安心感をさらに広げていき、より自分のペースで様々な領域を探索できるようになっていきます。

■産業コーチは、クライエントとの交流の中で、何度もこの体験を作り上げていくことで、生命体としての経験を検討することは安全であるという認識が、クライエントの中で芽生えることを目指していくのです。

■そうして、徐々に産業コーチがいなくても、生命体としての経験を、意識に象徴化するのを許容できる心理状態が形成されます。

■その結果、クライエントの内面では、恐しい物に徐々に慣れていくように、それまでクライエントの中で否認されていた経験が検討しやすくなっていくのです。

③〈歪曲の解消と自己構造の拡大のプロセス〉

■生命体としての反応を頼りに検討を続けるうちに、この生命体としての自身の反応が、価値判断の根拠となることを見出しはじめます。

■これにより、固執したやり方を習慣的に頼るよりも、より自由で柔軟な発想で実行する方がよいという信念を、自ら形成するようになっていきます。

■そして、生命体の反応によって供給される根拠により、何に自分は満足感があって、自己を強化するのかが明確化されます。

■こうして、生命体としての自己を維持したり強化する価値が、他者が良いとする価値とは区別して保持され、安定感のある土台が築かれていきます。

■その結果、何が正しい価値であるかを確かめるために、自分以外の価値観を頼る必要はない、という心境に至ります。

■次に、クライエントは自分自身の生命体としての反応と照らし合わせることによる価値の検討がはじまります。

■これが進むことによって、歪曲された知覚によって形成された自己概念の修正が起こり、それまで否定されていた経験は、生命体の反応から直接的に価値づけられた概念として象徴化することが起きます。

■このプロセスから、自己を強化し維持すると感じられた価値が受容される自己受容が生じ、自己構造の再体制化と統合が起きることによって、自己構造は拡大されるのです。

■そもそも様々な価値が受容されるのは、それらが生命体としての自己を維持し、自己を実現し強化していく原理があるからです。この原理に従って、その人の社会的価値は、文化から個人の内面へと投影されていくわけです。

(4).対人関係の問題とその解決

〈対人関係の問題〉

■自己構造と矛盾対立し、整合性が取れなくなる脅威から、その矛盾対立を起こす生命体としての経験を、存在しないことにする働きが心理現象としてあります。

■それが知覚の拒否と呼ばれる心理現象であり、この知覚の拒否をし続ける必要がある場合、それらの経験が象徴化され意識化されることがないよう、常に防衛しなければなりません。

■その結果、身の回りで起きていることや他者を、象徴化が促される潜在的な脅威として、防衛的に検討されるようになります。

■その状態での対人関係は、他者のさまざまな言葉や行動は、潜在的に脅威として経験し知覚されることから、不安や緊張が生じ、他者に対する認識は疑り深くなったり批判的にもなりやすくなります。

■また、他者の存在が自己にとって脅威であるかどうかという知覚の仕方になることから、一人のユニークな存在としての他者を、理解することが困難になってしまう場合もあります。

 

〈成長による対人関係の解決〉

■まず、セッション提供を受けるクライエントは、産業コーチに対しても、脅威であるかどうかという知覚の仕方で認識することになります。

そのクライエントからは防衛をするために、産業コーチに批判的態度を向ける場合もあります。

■産業コーチは、終始一貫してクライエント理解のアプローチを取り、純粋性に基づく伝え返しから、徐々にクライエントの内部に受容的他者としての投影が進み、安心感を抱いていただけるようになります。

■この安心感を伴いながら、自己構造の中にある歪曲して象徴化した自己概念についての語りが、少しずつはじまっていきます。

■生命体としての反応を産業コーチに受容されながら知覚していくことによって、クライエントは生命体としての反応に根拠をしっかりと置くようになります。これを土台に、歪曲して象徴化された自己概念に修正が起こり、その分生命体として経験している内容も自己構造に統合され、自己構造の成長に至ることで、結果的に防衛は最少限になります。

■防衛する必要がなくなれば、他者を脅威として知覚する必要がなくなるので、その分、不安感や緊張、疑心暗鬼にとらわれたり攻撃的になることも減少します。

■その結果、他者をその人オリジナルの意味づけによって機能しているありのままの存在として認めることが可能となり、オリジナルの他者を知覚しても、安定的に他者と関われるようになり、他者理解が建設的に行える状態に変化していきます。

■以上のような心理状態から、対人関係の構築や調整も柔軟にしやすくなるといえます。他者との関係において、現実的に自己を実現していくことに抵抗が減り、自己を自由に表現することが可能となります。

以上のことは、産業コーチとしての要素を形成するプロセスにも同様にいえることです。

(4).対人関係の問題と解決
5.産業コーチングの目標
5-1.​ひとが向かう「自分らしさ」

自己概念の修正と自己受容によって起きる自己構造の拡大を図ることで、クライエントの成長・成熟過程を支援することが、産業コーチの目標となっています。

また、この成長のプロセスは、絶えず変化する現実の状況や個人の状態に適応するためにも、継続的な意味を持ちます。そのことを前提として、成長に都度至った状態について、以下のように整理します。

5.産業コーチングの目標
5-1.ひとが向かう「自分らしさ」
(1).より「あるがまま」になる

■「あるがまま」とは、それまで以上に自分自身であることに安定感をもつようになることから、よりいっそう構えることなく、自分自身のあるがままになる、ということを指します。

■自己構造を脅かすような対立矛盾が起きないのであれば、知覚してはいけない脅威もないので、防衛は最小限になります。最小限になるということは、その分ありのままの自己でいられるということがいえます。

■さまざまな経験をしても、知覚してはいけない経験がない分、感じることや思うことは十分に開かれた知覚内容となり、自己充足のための行動選択も実行しやすくなります。

■また、生命体としての自己によって供給される感官的・内臓的反応を根拠としていられるので、何に自分は満足感があって、自己を強化するのかが直接的にわかるようになります。これは、正しい価値を自分以外の他者に求めたり確かめる必要がほとんどない状態ともいえます。

■こうした安定感は、他者との関係性の中でも保たれやく、他者が良いとする価値とは区別して自身の生命体としての反応によって形成された価値基準が保持されることになります。

■ただし、人間には基本的に承認欲求があることから、反社会的な行動選択がなされるような価値にのっとるよりも、高度に社会化された自己概念から供給される価値観に基づいた行動が選ばれる方が自然といえます。

(1).より「あるがまま」になる
(2).対人関係がより建設的になる

■「対人関係がより建設的になる」とは、対人関係の相互作用をより現実的に発展させられるようになる、ということを指しています。

■これは自己受容の分、他者理解がしやすくなることと関係しています。これらの関係については、以下のように整理できます。

①防衛する必要がない心理的状態では、他者を脅威として知覚する必要がなくなるので、必要以上に不安に思ったり疑心暗鬼にとらわれることもなくなる。

②自己が安定した状態のまま、つまり自然体のまま他者と関わることができると、他者をそのまま捉えることができる状態にもなる。それは、その人オリジナルの意味づけによって機能しているありのままの存在として他者を知覚するようになるからである。

■自分自身を深くこまやかに受容する人々の知覚のあり方は、実際の他者について知ることをしやすい心理状態を併せ持っているため、必要があれば他者をよりよく受容し、他者理解をこまやかにするようになります。

■また、周囲の他者をよりよく理解し受容するので、必然的に関係を良好なものにしやすいといわれています。ただし、単純に良好な関係を持てるというだけではなく、自然体で他者と関わることができることから、主体的に建設的な対人関係を築いたり柔軟に調整していくことがしやすくなっていることが本質的な変化を表しています。

(2).対人関係がより建設的になる
(3).自己実現していく

■他者や社会とのつながりの中で、自己を実現していけようになります。

■自己や他者をこまやかに理解することの延長として、日常の状況への認識力と適応力が高まることが挙げられます。

■具体的には、自分自身の価値基準に従って、行動を選択し自分以外の他者と関わり、さらに自身の行動を純粋に評価するようになります。そして、新たな行動を柔軟に選択しやすい状態にもなっています。こうしたことは、安定感からくる抵抗のなさから、自然と行いやすくなっているのです。

■以上のことは、現実的に対処できるということにもつながります。

■深く自己受容できている個人は、より多くのものを許容できるようになっている状態があり、現実の状況認識をすでに持っている認識の枠組みに帰属させるのではなく、状況把握から新たな枠組みを作り出していくことで、認識力の高いものにしていけます。

■そうなると、よりこまやかに現実を把握しての行動選択になることから、適切な行動選択による自己充足を得られやすくなるのです。こうした意味での現実的な対処がしやすくなり、これを「自己実現」と呼ぶことができます。

(3).自己実現していく
6.参考文献
  • Rogers, C. R. 1951,Client-Centered Therapy: Its Current Practice, Implications and Theory. Houghton Mifflin. (保坂亨・諸富祥彦・末武康弘訳,2005,ロジャーズ主要著作集2:クライアント中心療法,岩崎学術出版社)

  • Rogers, C. R. 1956,Client-Centered Therapy: A Current View. In Fromm-Reichmann,F. & Moreno, J. L. eds., ProgressinPsychotherapy.NewYork:Gruneand Stratton.(伊東博訳,1967,クライエ ント中心療法の現在の観点,伊東博編訳,ロージャズ全集15:クライエント中心療法の最近の発展,岩崎学術出版社)

  • Rogers, C. R. 1957,The Necessary and Sufficient Conditions of Therapeutic Personality Change. Journal of Consulting Psychology. In Kirschenbaum, H. & Henderson, V. L. eds., 1989,The Carl Rogers Reader. Houghton Mifflin(伊東博訳,2001,セラピーによるパーソナリティ変化の必要にして十分な条件,伊東博・村山正治監, ロジャーズ選集(上):カウンセラーなら一度は読んでおきたい厳選33論文,誠信書房)

  • Rogers, C. R. 1959,A Theory of Therapy, Personality, and Interpersonal Relationships, as Developed in the Client- Centered Framework. In Koch,S ed., Psychology, a Study of a Science. Vol. 3. Formulations of the Person and the Social Context. McGraw-Hill.(畠瀬稔他訳,1967,クライエント中心療法の立場から発展したセラピィ,パースナリティおよび対人関係の理論,伊東博編訳 ロージャズ全集8:パースナリティ理論,岩崎学術出版社)

  • Rogers, C. R. 1959,Lessons I have learned in Counseling with Individuals. In Dugan, W. E. eds., Counseling Points of View. University of Minnesota Press.(伊東博訳,1967,カウンセリングの立場,伊東博編訳,ロージャズ全集15:クライエント中心療法の最近の発展,岩崎学術出版社)

  • 山田俊介,2016,共感的理解の意味についての考察: カール・ロジャーズのとらえ方の変化をもとにして,香川大学教育学部研究報告,第I部,145,13-30

  • 山田俊介,2018,受容及び無条件の肯定的配慮の意味についての考察:カール・ロジャーズのとらえ方の変化をもとにして,香川大学教育学部研究報告,第I部,149,93-110.

  • 諸富祥彦,1997,カール・ロジャーズ入門 自分が“自分”になるということ,コスモス・ライブラリー

  • 西垣悦代,堀正,原口佳典,2015,コーチング心理学概論,ナカニシヤ出版

6.参考文献
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