発達支援
産業コーチが提供する支援は、自己構造(パーソナリティ)の拡大・発達をはかるパーソンセンタードアプローチにもとづいております。
この支援実践は、以下の3つの観点から構成されています。
産業コーチングとは、「パーソナリティ発達の機会提供を行う支援実践」を指します。パーソナリティは、社会との関わりによって形成されるものであり、活躍しやすい・生きやすいパーソナリティの発達を進めるためには、他者との交流によって規定されたパーソナリティを構成する概念群を、変容させていく必要があります。そのためには、受容的他者から感情を肯定的に理解されることで、感情を抑圧するような社会的概念を、自己受容的な概念に変容させて、自分らしいといえる概念群で構成されたパーソナリティに再体制化するプロセスをたどります。このプロセスによって、自身の感情を抑圧する概念群が少なく、自己受容的な概念群が大半を占めていくと、十分に機能するパーソナリティと呼ばれる特徴を持ちます。その特徴とは、社会的に身につけた信念による抑圧から自身の感情を否定することが減少するため、自己を現実に反映しやすくなり、新しい体験に開かれ、対人関係の調整も柔軟になる傾向を指しています。
上記のように、十分に機能するパーソナリティの特徴をもった活躍しやすい・生きやすいパーソナリティの発達は、望めば得られるような機会提供がなされることが重要といえます。
しかしながら、現代社会では必ずしもそうした機会が得られるわけではありません。
そこで、わたしたち産業コーチは、社会的な支援として機会提供をする「パーソナリティ発達の機会提供を行う支援実践」を、社会的責務としてその役割を担っております。
支援における他者理解の方法は、自他の視点を区別した上で自身への視点と他者への視点を行き来する社会的能力をもって、クライエントの適切とみなしている推論体系を把握し、クライエントの語りの意味をその推論体系にもとづいて解釈するという方法を採用しております。
そのように理解を進めることで、クライエントがそう感じそう思うのは当然のことだという、クライエントの感じ方や思考をクライエントに帰属し尊重していくことを重視します。
そのため、自分がクライエントだったらどう感じるだろうかといった自分自身をクライエントに投影するような理解の仕方は極力避けなければなりません。それは自身についての理解であり、クライエントの存在を認めるものではない可能性が生じるからです。同様に、心理検査等の外的基準で理解しようとするのも、得られるのはその基準にまつわる理解であると考えています。
以上のことを踏まえ、社会的関わりによって、クライエントの尊厳を重んじ、クライエントの自己決定を承認することは、活躍しやすい・生きやすいパーソナリティに再創造していくプロセスに不可欠であるため、クライエントの精神を健全さや病理といった外的な基準で評価または管理・指導することは避け、クライエントの推論体系から理解を構築してまいります。
ひとの発達は、神経生理学をはじめとする自然科学の立場から説明できる現象と密接に関わりながらも、パーソナリティにおいては社会的関わりによって形成されるため、わたしたち産業コーチの研究は、社会科学に類する知の生成に重きをおきます。パーソナリティは社会を前提とすることなく自然発生することがないため、自然科学による基礎づけ主義の理論基盤をパーソナリティの研究に採用しておりません。
わたしたち産業コーチは「パーソナリティ発達の機会提供を行う支援実践」を行いつつ、その実践を通した知の生成を社会の交流の中で進めてまいります。