専門性について
ここで言うアセスメントとは、病理と健康という軸による「欠如モデル(医療モデル)」に偏ったものではなく、主として個人のパーソナリティを捉えることに重きをおいたアセスメントを意味します。
産業コーチングにおけるアセスメントの目的は、目の前のクライエントのパーソナリティ(性格)が、より本人の特性を社会に活かされる方向へ発達するために、手掛かりとなる情報を収集することにあります。
このパーソナリティとは、生まれ持った自身の特性と環境との相互作用によって、社会的活動を伴いながら生存するために形成されるものをいいます。
また、パーソナリティを構成する多くの概念を活用して、現実の状況にうまく自身の特性を活かしている状態を「適応的」と表現します。
あらゆる適応のために、人はパーソナリティを構成する多くの概念を利用して、物事や出来事を知覚し、発言を含めた行動選択をすることになります。
産業コーチは、クライエントの知覚内容である内的事実をその語る内容や語り方から、専門的かつ継続的に把握していきます。
具体的には、支援の中で得られた把握内容から、クライエントのパーソナリティについての仮説を構築します。そして支援の回数を重ねる度に新たに得られる把握内容から、仮説を検証して再構成する作業を継続的に行います。
以上のように仮説と検証を繰り返すことによって、こまやかにパーソナリティを理解していきます。
ここで理解する主なこととしては、パーソナリティを構成する概念と概念の矛盾や、その矛盾のために生じる心理的葛藤・苦痛、それらに基づく適応のための選択、その結果直面する課題が挙げられます。
産業コーチングでは、根本にある概念と概念の矛盾を、安心安全の中で発見することや、生まれ持った特性と納得を伴う新たな概念化・概念の分化を支援することで、パーソナリティの発達に貢献いたします。
上記の「アセスメント(見立て)」の情報収集は、クライエントと産業コーチの対話の中で、同時並行的になされます。
アセスメントと支援は不可分の関係にあり、クライエントの語る内容や語り方から、その背景にあるクライエント独自の知覚の仕方を見立て、その知覚の仕方を確かめるために、産業コーチはそこから得られる感覚・感情・思考をクライエントに肯定的に伝え返します。
この伝え返された内容が、クライエントの知覚と近いものだった場合、「被受容感」という他者から認められた時に体験する安心感が得られます。
この被受容感を深めていくことで、人は葛藤や心理的苦痛が和らいでいきます。このようにしてとらわれを少なくし、建設的な内省が行いやすくなるよう支援します。
また、社会に存在する他者が受容的に自身の感じていることに応答していると、自身の感じていることを認めやすくなり、パーソナリティを構成していた概念が、社会性を保ちながら、より自分の特性を受け入れた形に再体制化されやすくなったり、新たに概念が増えることが臨床的に示唆されています。
このようにして、新しく統合されたパーソナリティに基づいて、より柔軟な知覚の仕方を獲得し、自分を活かす方向で社会に適応しやすくなっていくことが、産業コーチングの目標となっています。
事例研究は、概念化や効果を研究するケーススタディと、実際に起きていることを事例化するケースレポートに分けることができます。産業コーチは、特にケースレポートに重きを置いています。記録を作成できることによって、この世でたった一人の存在であるクライエントについての理解を継続的に行い、その人にとっての成長を明確に支援することを目指します。